わしの退屈病にかぶれかかって参ったな、まいっちんぐマチコ先生
「わしの退屈病(やまい)にかぶれかかって参ったな。ではよいよい、気ままにいたせ」
雀躍(じゃくやく)として京弥が供揃いの用意を整えて参りましたので、退屈男は直ちに駕籠を呉服橋の北町御番所めざして打たせることになりました。
しかし、駕籠が門を出ると同時です。そこの築地(ついじ)を向うにはずれた藪だたみのところに、見るから風体(ふうてい)の汚ないいち人の非人が、午下(ひるさが)りの陽光を浴びて、うつらうつらとその時迄居眠りをつづけていましたが、足音をきくとやにわにむくりと起き上がりながら、胡乱(うろん)なまなざしであとになりつ、先になりつ、駕籠を尾行(つけ)出しましたので、時が時でしたから京弥がいぶかしんでいると、青竹杖をつきつつ、よろよろと近づいて来て、いきなり垂れの中の主水之介に呼びかけました。
「御大身の御方とお見受け申しまして、御合力(ごごうりょく)をいたします。この通り起居(たちい)も不自由な非人めにござりますゆえ、思召しの程お恵みなされて下さりませ」
「汚ない! 寄るなッ、寄るなッ」